医師を目指す方へのメッセージ

六合温泉医療センター

普通であることと、普通ではないこと
「お医者さんには、どんな人が向いていますか」
 当施設に赴任して3年目の昨夏より、新たな試みとして医学部に進学希望のある高校生に向けて、高等学校に直接赴いて仕事の話をさせていただいております。
 冒頭の質問はよく尋ねられるものですが、私は「普通の人がよいと思います」と答えています。続けて「普通の人であれば、友達など身近な人が困っているときには力になろうと行動するだろうし、また目標を持ったとき、例えば医学部に入ろうとしたときに努力することは、普通の人であればやろうとするでしょう。普通の人であればやろうとすることをやる人であってほしいし、普通の人の考えを持ってほしい、思いやりとか優しさは普通の人であれば持っているはずで、特別にどこかが優れている必要はないと思います」と話しています。
 私はそのように話していますが、私のキャリアは一般の先生方とは異なり、当施設でのへき地診療所ならびに介護老人保健施設での勤務歴があります。はっきり言ってしまえば普通のことではないのです。しかしながら普通でないことを自分の売りにして、まだあまり手が入っていない分野で、何かしらやってみるということに価値を求める過ごし方もまた一興と考えています(普通ではないキャリアの私が、高校生には普通さを勧めていることに矛盾やおかしさはあるのですが)。現役の医師が高校生へ仕事の話をする会というのはあまり聞いたことがなかったこともあり、ならば自分が地域での仕事に絡めて話をしてみようといった気持ちになりました。また今回の草津での地域医療体験セミナーも、実習場所が診療所というのは初めてのことであり、ちょっとした思いつきで実現することができました。
 六合(くに、と読みます)地区は人口1200人程度・高齢化率45%前後の人口減少の著しい土地です。へき地で診療していると緊急時の対応に追われたり、働き手不足を実感したりすることも多々あります。しかしながら一人の医師として患者さんや御家族と関わる機会も多く、学生時代から説かれ続けてきた「疾患を診るだけではなく、その人の人生に関わる、地域を支える」という言葉の意味をようやく理解できてきたようにも思います。
 そういったことに魅力を感じ、短期間でもへき地で働く人が増えて、現在は普通ではない私のキャリアが「普通のこと」だと言われるような、そんな風潮になったら面白いのではないかと密かに期待しています。色々なものが目まぐるしく進歩を遂げる昨今を踏まえると、こちらを読まれている皆さんが医師として働き出す頃には想像もつかないような多様な働き方が生まれてくる時代になると思いますが、どんな働き方にも楽しさを覚えて過ごしていただくことを、先輩医師としては願ってやみません。

六合診療所 所長: 荒木 祐樹


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