西吾妻福祉病院
当院は、公設民営の病院として2002年2月に開院した。地理的には群馬県北西部に位置し、周辺の観光地では年間600万人とも言われる観光客を受入れているため、観光客を含めた救急医療に対応することが当院に課せられた役割の１つである。また当地域の基幹病院、さらにはへき地支援病院として2次医療の完結と総合診療を主体とした地域の保健・福祉・医療の充実が2つ目の役割であり、郡内唯一の分娩施設として産婦人科診療も継続している。当院の診療の特徴のひとつが診療科の垣根をなくした総合診療体制を主体としていることだ。無論、専門的な診療が必要な場合はその領域を専門とする医師が診療するが、救急、総合外来では初診、予約外の患者をほぼ全員の医師が交代で担当しプライマリケアを担い、必要に応じて院内の専門的診療を担える医師に相談している。さらに当院で診断、治療が困難である患者は救急の程度に応じて、昼間であればドクターヘリや県防災ヘリを使い、天候不良時や夜間であれば救急車による救急搬送、あるいは専門施設への紹介を行っている。したがって近隣のみならず県内外の医療施設との病診連携、病病連携は非常に重要である。また地域における総合診療を行う中では当然診断・治療のみならず、社会復帰に向けたリハビリテーション、さらに退院後もそれぞれの患者さんの生活環境に応じたフォローアップ体制が必要であり、それは医師だけではなく、看護師や社会福祉士、あるいはリハビリスタッフなど多職種が関わるチーム医療によって可能となる。また退院後の在宅でのケアについて、以前は訪問リハビリや通所リハビリ（デイケア）によるフォローアップが中心だったが、昨年より訪問看護ステーションおよび居宅介護支援事業所「えがお」を開設し地域の介護支援にも力を入れている。このような患者を中心とした予防・治療・リハビリあるいは介護に関わり、家族あるいは地域全体を診ながら治療、ケアを継続的かつ包括的に行うことが地域医療の大きな魅力であり、患者が各診療科に細分化された都市部の大病院では経験できない。幸い当院は、県内の単独・管理型研修病院の協力病院となっていることもあり、県内外から毎年20名以上の初期研修医が地域研修を当院で行い、地域医療の面白さ、醍醐味を肌で感じ充実した地域研修を行っている。また同時に毎年10名以上の学生実習を受け入れており、実際の診療の見学のみならず当院の医師たちの話や療養病棟あるいはデイケアでの老人の介護の経験等を通して、地域における総合診療やへき地医療とは何かを考えるきっかけにしてもらっている。「ゆりかご」ならぬ「お腹の中から墓場まで」・・・短期間ではあるが、目標を持って当院での研修に臨み、地域に密着した医療・介護を通してプライマリケアの面白さを是非経験し、体感してほしいと思うとともに、我々も継続して研修の場を提供して行きたい。
